Q-Nekoブログ第1回では、プロジェクトのビジョンと将来像について、日欧のコーディネーター二人に話を聞きました。 登場するのは、CSC – IT Center for Scienceで量子技術マネージャーを務めるミカエル・ユハンソン氏(以下、ミカエル・ユハンソン氏)と、産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)副センター長であり、日本側コーディネーターを務める堀部雅弘氏(以下、堀部雅弘氏)です。 Q-Nekoの原動力は何か。これからどのような課題に挑むのか。そして、この日欧連携は科学や産業、社会にどのような価値をもたらすのか。 二人の対話を通じて、量子技術、先端コンピューティング、そして国際連携の未来を探ります。

個人的な観点から見て、Q-NekoにおけるEUと日本のパートナーシップの価値はどこにあると考えますか?

Mikael Johansson, CSC
ミカエル・ユハンソン氏 – CSC. Image by Mikael Kanerva – CSC

ミカエル・ユハンソン氏

Q-Nekoの大きな価値は、量子技術という共通の目標に向けて、異なる強みを持つ欧州と日本を結び付けている点にあります。

欧州には、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、AI、量子コンピューティングを組み合わせた研究基盤や、多様な応用コミュニティがあります。一方、日本には世界トップレベルのデバイス開発力と、産業界に近い実践的なユースケースがあります。

Q-Nekoが重要なのは、それぞれの強みを持ち寄るだけではなく、それらを実際の連携につなげる仕組みを提供していることです。

HPC、AI、量子コンピューティングの統合は、ひとつの組織や国だけで実現できるものではありません。共有アーキテクチャや共通ベンチマーク、相互運用可能なソフトウェア、そしてチーム間の信頼関係が必要です。

欧州と日本が早い段階から協力することで、量子技術を活用した次世代コンピューティングの設計・評価・活用のあり方を共に形づくることができます。その成果は、将来これらの技術を利用する研究者や企業にとっても大きな価値になるでしょう。

Masahiro Horibe, G-QuAT / AIST
堀部雅弘氏 – G-QuAT / AIST

堀部雅弘氏

このパートナーシップの価値は、互いに異なる強みを結集できることにあります。

EUは量子アルゴリズムや理論研究に強みを持ち、日本はハードウェアや精密工学に強みを持っています。こうした補完関係によって、量子コンピューティングとHPCの統合といった、一地域だけでは解決が難しい課題にも取り組むことができます。

Q-Nekoでは、理論からハードウェア、システム統合までをつなぐことが重要です。その意味でも、この国際連携には大きな意義があります。

また、早い段階から協力することで、将来の標準やエコシステムを共につくり、リスクを分担しながら開発を加速できる点も重要だと考えています。

Q‑Nekoは、量子コンピューティングとハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の接点にあります。社会や産業への実用化という観点で、特に可能性が大きい分野はどこだと考えますか?

ミカエル・ユハンソン氏

最も大きな可能性があるのは、量子プロセッサと既存のスーパーコンピュータを組み合わせた実用的なハイブリッドワークフローの構築です。

CSCにとって、これはごく自然な方向性です。私たちは、高度なコンピューティング技術を研究やイノベーションの現場で活用できるサービスへと発展させる役割を担っています。

当面は、量子リソースを既存のHPC環境にどのように組み込んでいくかが重要になるでしょう。そのためには、ハイブリッドコンピューティングを試しやすくするソフトウェアインターフェースやスケジューリング手法、ベンチマーク、アプリケーション基盤の整備が必要です。

有望な応用分野としては、材料モデリング、化学、最適化、機械学習などが挙げられます。

また、インフラの整備も重要です。研究者が普段利用しているHPC環境から量子リソースへアクセスできるようになれば、利用のハードルが下がり、実証や検証も加速します。

こうした実用的な環境づくりこそ、Q-Nekoが大きく貢献できる部分だと考えています。

堀部雅弘氏

Q-Nekoでは、量子コンピュータそのものの性能向上だけでなく、量子技術をいかに実社会で活用していくかを重視しています。

私たちが目指しているのは、量子優位性の実現を待つことではありません。量子コンピューティングとスーパーコンピューティングを組み合わせたハイブリッドコンピューティングによって、今できることをひとつずつ社会実装につなげていくことです。

こうしたアプローチにより、材料探索、創薬、大規模最適化など、量子技術だけではまだ解決が難しい現実の課題にも取り組むことができます。

私が所属するG-QuATも、量子技術、HPC、AIの統合に取り組んでいます。研究と産業界をつなぐ立場として、EUとの共同研究で得られた成果を実社会で活用し、その価値を広げていきたいと考えています。

今後予想される主な課題は何でしょうか。また、それらに対応するためQ-Nekoはどのように設計されているのでしょうか。

堀部雅弘氏

量子技術には、ノイズによる不安定性やスケーラビリティなど、さまざまな技術的課題があります。

一方で、国際共同研究ならではの課題もあります。研究文化や制度の違いに加え、データ共有や知的財産に関する合意形成も重要になります。

Q-Nekoは、分散型の研究体制と共通プラットフォームを組み合わせることで、こうした課題に対応できるよう設計されています。

相互運用性を確保しながら、それぞれの強みや専門性を発展させられる点が大きな特徴です。また、共通のベンチマークや継続的な研究者交流によって、評価基準の共有やチーム間の連携を促進しています。

G-QuATは特に実装と評価の分野で貢献できると考えています。プロジェクトで生まれた成果を実用的なワークフローや評価基準へと落とし込み、社会実装につなげていきたいと思います。

ミカエル・ユハンソン氏

科学的な観点で見ると、量子コンピューティングとHPCがまったく異なる計算パラダイムであることが大きな課題です。

両者は性能特性やプログラミングモデル、技術成熟度が異なります。そのため、単にシステム同士を接続するだけでは十分ではありません。

ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、アプリケーション、さらにはユーザーの利用方法まで含めた共同設計が必要です。

重要なのは、量子技術を組み込むことでワークフロー全体が本当に有用になるのか、より正確になるのか、あるいは効率化できるのかを検証することです。そのため、ベンチマークと評価は非常に重要な役割を果たします。

また、欧州と日本のチームが継続的に足並みを揃えていくことも大きな課題です。

Q-Nekoでは、明確なプロジェクト体制と定期的な交流を通じて、この課題に取り組んでいます。特に研究者交流や実証システムの共同開発は重要だと考えています。そうした活動が、形式的ではない実効性のある連携につながるからです。

CSCとしては、研究成果と実際の運用環境、そしてユーザーのニーズを結び付ける役割も担っています。

CSCとしては、研究成果と実際の運用環境、そしてユーザーのニーズを結び付ける役割も担っています。

プロジェクト終了時、技術面と日欧連携の両面で、どのような成果が実現できていれば成功だと考えていますか?

ミカエル・ユハンソン氏

技術面では、Q-NekoがハイブリッドHPC+AI+量子コンピューティングのための、信頼性が高く再利用可能な基盤を構築できていることが重要です。

例えば、検証済みのワークフローやソフトウェアコンポーネント、ベンチマーク手法、さらには量子コンピューティングがHPCにどのような価値をもたらせるのかを示す実証成果などが挙げられます。

成功は、ひとつの画期的な成果によって決まるものではないかもしれません。むしろ、多くの研究者や開発者がその上に新たな成果を築いていける土台を残せるかどうかが重要です。

量子リソースがどのような場面で価値を発揮するのかを明らかにし、それをスーパーコンピューティング環境に統合するためのツールや、実際のユースケースから得られた知見を共有できれば、大きな成果と言えるでしょう。

CSCとしては、量子分野の専門家だけでなく、幅広い研究者やアプリケーション開発者にとっても、この技術がより利用しやすいものになることを期待しています。

連携の面では、Q-Nekoが単発のプロジェクトで終わらないことが重要です。

この取り組みを通じて欧州と日本の研究機関の間に継続的な関係が築かれ、将来の共同プロジェクトや、相互運用性、ベンチマーク、教育、人材育成、標準化といった幅広い分野で協力が続いていくことを期待しています。

プロジェクト終了時に、ハイブリッドコンピューティングの発展に向けて協力し合う、より強固な日欧コミュニティが生まれていれば、それは大きな成果だと思います。

堀部雅弘氏

私たちが目指しているのは、研究成果を生み出すことだけではありません。

技術面では、量子コンピューティングとHPCを実用的な形で統合した計算ワークフローを確立することが、大きなマイルストーンになると考えています。

また、材料科学や最適化といった産業分野で具体的な成果を示せることも、成功を測る重要な指標になるでしょう。

さらに長期的には、EUと日本の間に強固で持続的な研究ネットワークを築くことを目指しています。

そのネットワークが次世代の共同研究へと発展し、量子コンピューティングとHPCの統合に関する新たな標準づくりにつながっていくことを期待しています。

加えて、国際的に活躍できる量子分野の人材を育成することも、このプロジェクトの重要な成果のひとつです。

技術だけでなく、人と人とのつながりを育て、次の世代へとつなげていくことも、Q-Nekoの大切な役割だと考えています。

このプロジェクトに関わる中で、特に魅力を感じていることは何ですか?

堀部雅弘氏

特に魅力を感じるのは、量子技術が理論や実験の段階を超え、実際の産業課題の解決に使われ始めている、その転換点に立ち会えることです。

材料開発や創薬、物流最適化といった分野では、量子技術とHPCを組み合わせた新しい計算手法が、これまで解決が難しかった課題に応用され始めています。量子技術が「未来の技術」から、実際に価値を生み出す技術へと変わりつつあることを実感しています。

さらに、EUと日本がそれぞれの強みを持ち寄ることで、一国や一組織だけでは実現できない成果につながる可能性があります。アルゴリズムとハードウェアの両面から挑戦できることも、この連携の大きな魅力です。

私自身は、研究と実社会をつなぐ役割に特にやりがいを感じています。先端技術を実際に使われる技術へと育て、その架け橋の一員になれることが、このプロジェクトの大きな魅力だと思っています。

ミカエル・ユハンソン氏

Q-Nekoの魅力は、実用的な課題と将来に向けた挑戦の両方に、国境を越えて取り組めることです。

コーディネーターとして、この連携がすでに本格的に動き始めている様子を見るのは大きな励みになっています。技術的な課題から、リソース共有のような大きなテーマまで、どの議論からもプロジェクトを成功させようという強い意欲が伝わってきます。

Q-Nekoが面白いのは、単に量子コンピューティングの未来を語るプロジェクトではないからです。

例えば、「研究者はどのように量子リソースを共有するのか」「量子コンピュータとスーパーコンピュータをどう連携させるのか」「実用的なワークフローとは何か」といった、とても現実的な問いに向き合っています。

言い換えれば、私たちは「量子技術が社会に組み込まれた未来」を具体的に考えながら、その実現に取り組んでいるのです。

また、日本のパートナーとの協力は新しい視点をもたらしてくれます。量子分野は国や地域を越えて発展させていく必要があるという共通認識を持ちながら、一緒に未来をつくっていけることに大きな意義を感じています。

科学的な挑戦と長期的な国際協力の両方に関われることは、私にとっても大きなやりがいになっています。